紙切れ友達2008年12月05日

乗り換え駅の階段を上っていたら
後ろから聞きなれぬ声

『落としましたよ』

振り返ると
要らないレシートみたいなのを差し出している
赤の他人

ニット帽を目深にかぶり
鼻のしたまでマフラーを巻いている

その男。他人。 怪しい・・・


「レシート、私落としたかな?
捨てたと思われて拾われたのかしら?
いや、本当に落としたかな?
第一落とすようなしまい方したかしら?」


一瞬色々な思いが頭の中をめぐり

相手の顔もろくに見ずに
『あ~ありがとうございます』

と受け取った。

彼は私を追い越し去っていった


…なんのレシートだったかな。

よくよく見てみると
その紙きれはレシートではなく
なにかのメモだった


『急にすみません。
落としましたよ、は嘘です。
僕と友達になってください。29歳社会人です。』

そして携帯番号、メルアド。

そして無記名。

なぜ無記名?


……………………。


ちょっと意味が分からなかった。
私が落とした物ではないって事だけが明白。

顔を上げると
もう先ほどの赤の他人らしき人はどこにもいない。

黒っぽい帽子やマフラーしか覚えてないし。
顔も背格好もわからん。

しばらく呆けるうちに
ようやくこのメモの意図することが理解できてきた。

怪しすぎる・・・


でも友達って、こうやって作るんだっけ?

こんなんで友達になれるのか?
友達にしたいと思えるのか?
そもそもなんで
こんな突発行動をとるのか?
全く持って意味不明。
場合によっては
失礼極まりなく逆効果。

様々な動揺を抱えさせられた私は

連絡することもなく
帰宅し

我が家のヤギに
この紙きれを見せてみた。
ヤギはただだまって
紙きれをムシャムシャと
食べた。
ビリビリになった。

それが
紙きれ友達に対する
ヤギの答えだった。


…ヤギという名のうちの犬

トトよ、君こそ私の友達だ。


トトも自ら名乗ることは出来ないけれど

ちゃんと呼び名があるからな。

呼び名のない友達なんていない。